福岡高等裁判所 昭和28(う)1958 高裁判例
主 文
本件各控訴を棄却する。
理 由
弁護人諫山博が述べた控訴趣意は、記録に編綴してある同弁護人提出の控訴趣意
書並びに被告人等連名提出の控訴趣意書に記載の通りであるから、ここに之を引用
し、右に対し当裁判所は次の様に判断する。
弁護人諫山博の控訴趣意第一点について。
原判決が証拠(殊に原審証人Aの証言)により認定したその冒頭摘録の事実によ
れば、「被告人等は昭和二十七年三月十五日午後六時三十分頃、かねて会社側との
間に低賃銀改正等の要求を遶つて争議を続けていた福岡市ab町所在株式会社B従
業員組合を支援し、右要求貫徹のため、同組合員その他約百名と共に、右ホテル表
入口並びに同所キャバレー入口にピケットラインを張りスクラムを組み、労働歌等
を高唱して気勢を挙げ、同ホテル内への一般来客を全員協力してこれを押返す等の
行為に出でてその立入<要旨第一>を完全に阻止し」ていたと言うのであつて、本来
労働者の争議行為として合法性を有するいわゆるピケッテイ</要旨第一>ングも、単
なる説得或は集団的行為そのものに自ら伴う心理圧迫等の範囲を逸脱して右の如く
第三者たる一般来客に対し該ピケット隊員が協力して体当りしこれを押返す等の行
為に出でその営業場立入りを阻止する様な暴力行使の事態に立至つては、もはや労
働組合法第一条第二項刑法第三十五条による合法性を喪失し、右第三者たる来客に
対しては暴行罪、使用者に対しては営業妨害罪を構成する違法な争議行為に顛落す
るものと解するのが相当であり、従つて原判決には所論の様にピケット権の法理を
誤解して正当なピケッテイングを違法とし延いて無罪たるべき被告人等を有罪とし
た違法はないから、右論旨は理由がない。
同第二点について。
警察官等職務執行法第五条が、その前段において「警察官等は、犯罪がまさに行
われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発」する
ことができる旨を規定し、その後段において(「警察官等は、)もしその行為によ
り人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があつ
て、急を要する場合においては、その行為を制止することができる」旨規定してい
ることは所論の通りであ<要旨第二>る。而して右後段において「その行為を制止す
ることができる」と言うのは、その前段において犯罪がまさに</要旨第二>行われよ
うとする際口頭その他適宜の通告により関係者を警しめる措置を講ずることができ
る旨を定めたのに対し、右の様に人の生命身体に対し危険を及ぼし或は財産に対し
重大な損害を与える虞がある行為(以下単に虞危険行為と呼ぶことにする)を事実
上の行動により抑制し停止することができる旨を定めたものであるが、右にいわゆ
る抑制乃至停止とはかかる虞危険行為の一部乃至全部をその必要な限度(同法第一
条第一項第二項参照)において実力を以て排除することをも包含する趣旨と解する
のが相当である。然るに、いま本件ピケッテイングにつき考察するのに、原判決が
証拠により認定したその冒頭摘録の事実によれば、前段第一点の論旨に対する判断
の中において引用した暴力行使の事態の外尚「他方これを見物しようとする一般群
集は附近道路上に蝟集してその数約八百名に達し、為に一般通行を甚だしく阻害す
るに至つた、よつて福岡市警察局本部勤務警部Cは被告人等ピケ隊員に対しその解
散を警告したが、これに応じないのみか却つて気勢をあげ剰さえ同ホテルに立入ろ
うとする一般来客である占領軍兵士との間に抗争を生じ、勢の趨くところ不測の事
故が発生するやも計り難い急迫した事態に立至つたため前記警部Cは事態容易なら
ずと考え、警察官等職務執行法第五条の規定に基き、遂に同日午後七時過頃警察隊
員約七十名に命じて実力を以て右ピケ解散の措置を採らしめたもの」と言うのであ
つて、右によれば現に暴行が為されて居り之をそのまま放置するときは勢の趨くと
ころ一般来客(主として占領軍兵士)の少くとも身体に対し危険を及ぼす事故が発
生するかも知れない急迫の状態に立至つていたことが明らかであるから、警察官が
斯様な状態に在る本件ピケッテイングに対し実力による解散の措置を講じ所論の様
にスクラムを引きはなしピケットラインを崩す等の行動を執ることは前説示の実力
による虞危険行為の排除としてまさに警察官等職務執行法第五条後段に該当する適
法行為と言うべく、従つて本件における警察官のピケット解散の措置を合法的なも
のと判断した原判決には所論の様な右法条の法意を誤解した違法はないので、右論
旨も亦理由がない。
被告人等の控訴趣意第一点について。
既に弁護人諫山博の控訴趣意に対する判断の中において説示した通り、本件ピケ
ッテイングはその第三者たる一般来客に対する暴行行為により合法性を喪失して違
法な争議行為に顛落し、又かかるピケッテイングを実力により解散させようとした
警察官の行為は警察官等職務執行法第五条後段に該当する適法なものであると認め
られ、原判決挙示の各証拠その他記録全般につき調査しても、未だ所論の様に原判
示の警部Cが何等正当た事由がなく法を無視して右解散の措置を採つたものとは認
め難い。而して、本件の争議が本来世論の支持を得た正当なものであり又一般的に
ピケッテイングそのものが合法視せらるべきこと所論の通りであるとしても、何等
上記の判断に変更を来すものではないから、右論旨は理由がない。
同第二点について。
本件における警察官のピケット解散の措置が合法であることは前説示の通りであ
り、所論の様に警察官等においてアメリカ人を煽動してピケ隊との間に抗争を生ぜ
しめるに至つた事実を肯認させるに足る十分な証拠は存在しないから、右論旨も理
由がない。
同第三点について。
記録につき精査しても、所論の様に本件における警察官の措置が計画的に仕組ま
れた不法な政治的弾圧であり被告人等の本件所為が右不法弾圧に対する正当防衛行
為であるとは認め難いので、右論旨も亦理由がない。
尚右に判断した以外の所論は、証拠に関する独自の見解に立脚して原判決の事実
認定を非議し、或は記録に現われていない事実や事件と関係のない事項を縷々主張
するに過ぎないから、何れもこれを採用し難い。
以上の様に本件控訴趣意はすべてその理由がないから、刑事訴訟法第三百九十六
条に則り本件各控訴を棄却することとして、主文の様に判決する。
(裁判長裁判官 谷本寛 裁判官 藤井亮 裁判官 吉田信孝)